SAC東京第6回月例会 事務局レポート
9月24日開催 SAC東京第6回月例会 事務局レポート
SAC第6回月例会では、再び川島隆太教授が登壇しました。講演テーマは「脳科学を応用して新産業を創出する」です。
冒頭、川島教授は「脳科学は範囲が広い」と切り出しました。「脳科学は脳波を調べること」と言われるとへこんでしまうという川島教授です。
東北大学加齢医学研究所の研究シーズ、脳機能イメージング技術は世界でもトップクラスです。それは任天堂と東北大学との産学連携から生み出された資金が充当されたからだと川島教授が説明を始めたとき、会場に緊張の空気が流れたように感じたのは私だけではなかったと思います。
まずは研究シーズ、脳機能イメージング技術が紹介されていきました。
機能的MRI装置は磁石の塊であり、ヘモグロビンの量を測ります。組織の腑活によって脳血流量は増加しますが酸素消費量は一定に保たれます。このため、脳組織の静脈の血流中の酸化ヘモグロビンと還元ヘモグロビンの量が賦活により変化します。これをBOLD効果と呼びます。機能的MRIはBOLD効果を計測して脳組織の賦活度合いを評価します。
一方、機能的MRI の課題は脳組織の賦活をキャッチするまで約6秒間の遅れが生じることです。このため、対象とする脳組織が、いつ働いたかを見つけるのが不得手です。しかし、脳のどこで働いたのかを見つけるのは得意です。
ポジトロンCT装置は陽電子がある距離を飛行した後、陰電子と結合消滅する時に180度反対方向に放出されるγ線(511KeV)を計測して生体内における放射能の空間的分布を計測するものです。脳PET画像によって血流量、酸素摂取率、酸素代謝率、血液量、ブドウ糖代謝率のデータの説明があり、ブドウ糖代謝画像も示されました。
簡単に言えば脳波計は電圧計、脳磁計は磁気センサーです。近赤外計測装置は安全な装置であり、脳の光の通りやすさと難さによって還元ヘモグロビンの濃度変化、その総和である血液量に対応する総ヘモグロビン濃度変化を計測します。光の経路のみの情報しか計測できませんが、賦活しているとき、していないときの比較ができます。一方、皮膚や脳表面の血流まで計測してしまう欠点があります。
脳機能イメージングで観察しているものはエネルギー伝達系と情報伝達系ですが、このように脳機能イメージング装置ごとに長所と短所があるそうです。
最後に自動車機器メーカーと産学連携している「JiNS」の紹介がありました。「さりげないセンシング」としての眼電計、頭部加速度計内臓アイウェアでは、眼鏡に目の動き、まばたきの速度、まばたきの頻度等から脳機能情報を入手可能です。
次に講義は「脳機能の可視化、ブレイン・マッピング」に入っていきました。例えばスイカとテレビを合体するといった新たな発想をした時に脳活動がどうなるのかを可視化する研究です。
イマジネーションの脳と言葉の脳はどうなっているのでしょうか。好き嫌いの気持ちは脳の異なった領域で作られます。知的興奮を覚えたときは海馬が動きます。癒しの感覚は大脳連合野の抑制、心地良さは前頭前野の抑制であることがわかっています。
足ツボの中の眼のツボを押すと脳の目の領域が確かに反応することが分かってきました。しかし、医学的にはその二つは何もつながっていないとのことです。その理由はまだわからないそうです。
川島教授の話は「脳機能の可視化の社会応用」へと進んでいきました。本当にテレビゲームは脳に悪いのでしょうか?確かにテレビゲーム中に前頭前野は抑制されます。ゲームが学力に悪影響を与えているデータも示されました。ゲーム操作に慣れると前頭前野の活動は抑制されていきます。しかしながら、ゲームごとに働く脳が異なるというのです。
心理学者がつくった脳トレゲームは効果がないことも分かっています。勉強していてもゲームをすると成績が悪くなる。勉強もするがゲームも長時間する子は全く勉強しない子より成績が悪いことも分かりました。しかし1時間以内は大丈夫だというデータも示されました。要はこういうことです。ゲームらしくすると脳に抑制が働く。だから過度にゲームらしくしない、ということが開発のポイントなのようです。さてどう応用するべきなのでしょうか。
最後に川島教授から未来への提案がありまました。それは日常生活環境下での計測です。先に説明があった超小型NIRSを実フィールドで活かすことなのです。しかし、これだと脳の全ての場所を測れません。したがって、脳のどの場所を狙うのか高度な知識と仮説が必要になるのだそうです。前頭前野の機能で特に重要なのは、背内側前頭前野(DMPFC)と背外側前頭前野(DLPFC)です。
現在は脳のゆらぎから学校の授業におけるコミュニケーションの在り方も研究できるようになりました。それによってインタラクティブな授業と通常の一方通行の授業との差を比較できるようになりました。さらに脳の活動を音に変換できる「脳活動リアルタイム可聴化」も可能となりました。
最後は「ニューロフィードバック「Neuro Feedback(NF)」についての話しです。これは自分の脳活動のコントロールを身に付ける訓練のことです。例えば食欲が働く脳活動はどうでしょうか。食欲コントロールに応用していけば肥満や糖尿病の改善・予防法がみえてきます。さらに生活習慣をつくりだすことができます。またNF脳活動パターン自覚を通じた優しさ・愛情状態を志向したコミュニケーションも実現可能になるということです。
ここで、川島教授の講演は終了です。
さてここから個別の質疑応答に入りました。質疑のみ紹介します。
- 脳の活動状況、食欲 脳の活動が先か?
- 脳機能の可視化、ほかにあるか?
- 足ツボの脳のマッピングはできているか?
- マウスでも食欲をコントロールすることが可能か?
- 脳の音楽は? 音を解明することは可能か?
- 食欲をコントロールできるか? 事故を減らすことができるか?
- 脳と相性との関連性は?
- NFで楽しく生活習慣を変える要因は?
- テレビゲームをすると頭が悪くなるというが頭が良くなるゲームはあるか?
- 好きなものをやっている時、脳は活性化しているか、ストレスの時は?
- JiNSで眠くなるのはなぜか分かるか
- ゲームの影響は蓄積されるか?
- NFによる食事ダイエッドのリバウンド効果は?
全ての質問に明解に答える川島教授ですが、脳機能にはまだ解明されていないこともたくさんあります。だからこそ未来への期待が膨らんできました。
休憩をはさんでグループトークに移り、グループごとに質問を出していただき、それに川島教授が答えていきました。
グループトーク、その質疑も多岐に渡りましたが、今回参加の皆さんは「Neuro feedback(NF)」について大きな興味を示したことが分かりました。今でも毎日自ら開発した「鬼トレ」で脳を鍛えているという川島教授は自らの脳をコントロールできるそうです。それを証明するかのようにすべての質疑に明瞭に回答する川島教授が印象に残った月例会が終了しました。
文責:SAC東京事務局
タグ:スマート・エイジング, ニューロフィードバック, 加齢医学研究所, 川島隆太, 脳科学
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