SAC東京第4回月例会 事務局レポート

7月23日開催 SAC東京第4回月例会 事務局レポート

blog150727sac4-1SAC東京月例会第4回は東北大学加齢医学研究所腫瘍循環研究分野の佐藤靖史教授による「がんと血管老化を制御する新しい治療法の開発」というテーマの講義でした。

言わずと知れた日本の死亡率の1位はがんです。しかしその率は加齢とともに減少し90歳を超えてがんで亡くなる人は少ないとういうデータが示されました。すなわちがんになりにくい人が長生きしている結果だと佐藤教授は言います。

全身に分布している毛細血管があります。その中に低酸素によって血管の不安定化、ペリサイトの脱落によって血管新生が開始します。それが発芽し原発癌となり発育してがんとなっていきます。そして転移し転移性癌の発育へと進みます。要はがんのもとは血管であるということです。

この血管blog150727sac4-2新生の調節が注目され促進因子と抑制因子の研究がなされてきました。血管新生促進因子の代表は血管内皮増殖因子(VEGF)というものです。すでに2007年からVEGFをブロックする血管新生阻害薬は抗がん剤としてがん治療に使われているそうです。

しかし、VEGFシグナルを標的とした薬剤の問題点の一つは副作用です。それは高血圧、たんぱく尿、創傷治癒の遅延、消化管窄孔、出血、血栓性疾患などです。問題点のもう一つは薬剤耐性です。

佐藤教授は血管新生に関わる新規調節分子を発見しました。それを「Vasohibin(VASH)」と命名しました。Vasohibin(VASH)の遺伝子樹は原始的な多細胞から良く保存されており、進化の過程で脊椎動物からVASH1とVASH2に分かれたと考えられているそうです。VASH1は血管新生の終息部位の血管内皮細胞に発現し、VASH2は血管新生最端に湿潤するCD11b陽性細胞に発現するということです。

佐藤教授は各種実験データや写真等をたくさん示して医学的メカニズムを説明しました。重要なポイントは佐藤教授によってがんのもととなる血管新生を抑制しているVASH1と、血管新生を促進しているVASH2が発見されたということです。簡単に言えば、VASH1を増やし、VASH2を減らすことができればがんにはなりにくい、あるいはがんを治療できるとのことです。

blog150727sac4-3さて、ここで質疑タイムに入りました。講義は医学的専門性が高かったせいか、進行役の村田裕之特任教授が質疑を促してもなかなか手が挙がりません。そんな中で勇気ある一番初めの質疑は参加者自身の健康相談的内容からでした。それに対して優しく回答する佐藤教授です。臨床経験もある医師としての一面も見えてきました。

 

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一人が質疑をすると、次々と手が挙がりました。データをみるとVASH1濃度の高い人が延命しているように思うが、その特徴はあるのか?
人によって違うのは先天性か後天性か?などなど。

VASH1は加齢ともに低下することがわかっているものの、それがなぜかはまだ解明されていないと言います。しかしメカニズムは分かりつつあるというからマンパワーと研究費があればその解明は遠い将来ではなさそうです。

blog150727sac4-5某女優が全身がんを公表したが真実かなどという質問まで飛び出しました。しかし、その告知が本当なのか、どこに原発性があるのかが不明のため、簡単には回答できないようです。

そもそも、なぜ、低酸素になるのか?血管、血液の供給とのアンバランスによって血管新生ができ、血流とデマンドとの不一致が起きるそうです。細胞ができる時に酸素が必要となる、すなわち肥満の人はリスク高いと佐藤教授は説明を加えました。そのほかにもVASH2の抑制因子を減らす方法などについて質疑がありました。

講義は後半に入りました。さらに佐藤教授から詳しい研究手法や研究成果が示されました。

  • VASH1治療でがんの発育は制御できる
  • VASH1と抗がん剤(シスプチラン)との併用効果
  • VASH1治療でがん転移は制御できる

また、VASH1治療では、VEGFシグナルを標的とした薬剤の副作用も改善されるそうです。VASH1はたんぱく尿を来さない、血圧を上昇させないとうこともメリットです。さらに血管内皮細胞のストレス耐性も高めます

一方、VASH1に関する研究の中には血管老化の制御があります。複製老化とは細胞が分裂を繰り返すことによる老化のことです。細胞分裂を繰り返すことによって染色体の末端部のテロメアが短縮していくそうです。これによって、もうこれ以上細胞分裂ができないことを「ヘイフリックの限界」と呼び、これが細胞の寿命ということになるのだそうです。

紫外線、タバコ、活性酸素などによってDNA(遺伝子)に損傷が起き、早期細胞老化が始まります。そこからがん遺伝子、がん抑制遺伝子の多段階変異によって「がん」になります。あるいは血管内皮細胞の老化によって「老化に伴う血管病」になってしまいます。

さて、これらの研究を通して老化は制御できるのか。佐藤教授は血管内細胞のVASH1発現が低下する要因として無重力状態を挙げました。また、寝たきり状態は無重力と類似性があると指摘します。

最後にVASH2に関する研究についても触れました。VASH1はいろいろな臓器の中でできているようですが、VASH2は正常な臓器ではできないそうです。

いかに、健康寿命延伸ビジネスの中でVASH1を増やし、VASH2を減らし、血管の老化予防、がん予防につなげるか、このテーマがとても重要なことが分かります。

ここで質疑タイムです。各社の研究部門関係者から専門的な質疑もでました。VASH1、VASH2の測定方法、がんの早期検知方法、無重力の影響などについて、メカニズムが分かってきているのでやろうと思えばできる、という佐藤教授の回答は力強く聞こえました。

しかし、やはりここにも研究者のマンパワーと研究費の問題が大きいようです。このSAC東京の活動を通して産学連携が具体的に動きだすことによって、人はがんに怯えず生きていける社会が訪れる。私の中にはそんな期待が膨らみました。

blog150727sac4-6さて、これまでの参加者からの声を参考にしながら、今回から交流会からグループトークへ変更してみました。理由のひとつは、講師と参加者の意見交換。もうひとつは、参加者同士の情報交流をさらに活発化するためです。

 

 

8名を1グループとして7グループに分け、各グループリーダーをくじで選考しました。佐藤教授が1グループから順に回り、10分間ずつ名刺交換と講義内容に関する意見交換を行いました。グループリーダーが質疑をまとめ、村田裕之特任教授がエスコート役です。

blog150727sac4-7佐藤教授からは「がんの制御と血管老化の制御と、どちらの可能性が高いと感じたか」というグループトークの課題も出されました。教授が回ってくるまで、回った後は各グループ内では密度の濃い議論が行われました。

 

 

 

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そしてグループトークを終えて、各グループ発表です。難しいテーマだったにもかかわらず、参加者からは素晴らしい報告が続きました。さすが健康寿命延伸ビジネスを模索する集団です。運動量とがん、血管老化の話しが多かったのが印象的でした。

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SAC事務局長 小川利久

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