SAC東京第3回月例会 事務局レポート
6月25日開催 SAC東京第3回月例会 事務局レポート
「健康寿命」という言葉を世に送り出した辻一郎教授から「健康づくりの投資効果」という講義テーマをいただきました。
「投資」とは主に経済の生産性の中で使われている用語です。私は第一印象の言葉として少し違和感があったのが本音でしたが、それだけに興味をそそられました。
「健康」とどう関連してくるのか、健康のための資本とは何か。何に投資すればどのような資本が増えたり、維持されたりするのだろうか。さあ、そんな疑問と期待をよそに辻教授の講義が始まりました。
現在の日本は「高齢者のさらなる高齢化」が起きています。すなわち75歳以上の後期高齢者が増えていく問題であり、2025年問題(団塊世代が全員が75歳超える)へとつながっています。
今の水準で推移すると医療費は現在の1.59倍、増額分だけでも20兆円近くとなってしまうことが予測されています。当然にその対策を考えていかなければなりません。そのベースにあるのが病気にならず「健康寿命」を長く保つことなのだということになります。辻教授によれば、嬉しいことに多くの疾病は予防可能だそうです。
まず例に挙がったのがタバコと健康の関係性でした。喫煙と医療費の関係は次の通りです。タバコを吸う男性の1月あたりの医療費は27,686円、タバコを吸わない人は23,562円 、その差額はなんと4,124円にも及びます。女性の場合はタバコを吸う人が21,455円、吸わない人が19,382円、差額は2,073円となり、喫煙による医療費の差が明確なデータによって示されました。
アメリカの場合は地域格差が大きいようです。ユタ州は信仰の影響で禁酒禁煙者が多い、しかしネパタ州は喫煙率が高い。ところでなぜこういう統計をとっているのでしょうか。政府がタバコ会社へ訴訟を起こすためのデータ集めということだそうです。すごい国だと思いましたが、これらの数字を示されれば私も当然だと納得出来ました。
もちろんタバコ以外にもメディケイド(低所得者対象の公的医療制度)、産婦人科医の配置による帝王切開、ホスピスの緩和ケアなどの終末期医療費にも大きな地域格差があるようです。
BMIについてはどうでしょうか。男性はBMIが 25〜27が一番長生きですが、さほど痩せていても太っていてもさほど変わらないようです。しかし女性は差異が広がるようです。私にとって最も興味深いデータが示されました。それは一日の歩行時間は医療費と死亡リスクに大きく関連していました。
全国民がさらに一日に1000歩余分、時間にして10分歩けば総医療費は7%、2.3兆円の減少、1歩分で医療費1.341円が減るそうです。
アルコールの摂取と死亡リスクと医療費も示されました。アルコール摂取そのもの影響もありますが、アルコールを飲む人、タバコを吸う人は病院へ行かない生活習慣を持ち、これが二つ目のリスクになっているそうです。さあ、みなさん日常生活に歩行を組み入れましょう。健康寿命のポイントが見えてきました。40歳 の平均余命が3.7年も異なっています。1日1時間以上歩いている人が一番長生きで医療費安いのです。
肥満の人は糖尿病、心筋梗塞になりやすく治療が長引き医療費がかかります。タバコはガンにかかりやすくなりますがガン治療そのものの治療は長期化しないので医療費がさほどかかりません。しかし短命です。歩いた分だけ長生き、そして中年期に心血管系危険因子がなかった者は長生きだけでなく、老年期の医療費も低くなります。
ここで質疑タイムに入りました。(進行は村田教授)
Q1.直接的な医療費以外の生活コスト増はどうか、歩くこととサルコニペニア筋肉と医療費は
Q2.BMIと平均余命の関係はどうか
Q3.終末期の医療と介護費が異なるデータはあるか
Q4.個人負担額と国の負担額はどうか
Q5.内臓脂肪とBMIの関係はどうか、BMI指標だけでよいのか
Q6.認知症との関係はどうか
Q7.生活介入すると医療費が改善したデータはあるか
全ての質問に的確に答える辻教授です。一方、まだ解明されていないデータもたくさんあることが分かってきました。この辺にも健康寿命延伸ビジネスのチャンスがあるようです。
後半の講義に入りました。テーマは「データヘルスから健康経営へ」健康日本21(第二次)や日本再興戦略の説明から始まりました。
保険者の意識が変わると医療や健康に関するコスト意識が高まることを基本とするのが「日本再興戦略」です。そこにデータヘルスの発想が生まれ、データヘルス計画が策定されていきました。レセプトや健診データの分析、スマホを使った改善データは有効ではあるがまだエビデンスとはなっていないそうです。
企業サイド、健保組合との連携は欠かすことができません。効果を高めるためには健康教育ができる人や健康のコンサルタントが不足している、だからこそ今後は健康支援ビジネスが有効なのだ、と説く辻教授です。参加者の目が輝き、メモを走らせます。
健康増進法が平成14年に制定され、「マナーからルールへ」が叫ばれ、タバコが吸いづらい社会環境となってきました。
辻教授はポピュレーション戦略とハイリスク戦略の調和が重要だと話を続けます。「イベントではヒットしない」、法制度が価値観を変える、だから健康寿命延伸は制度との調和が重要であるということを力説されました。
労働力人口の高齢化、生活習慣との関連性が増加、メンタルヘルスの問題、これらはすべて経営上の課題でもあり、コラボヘルスへとつながっています。企業はますます従業員の健康のために「健康投資」を行い「健康経営」へ向かわなければならないようです。
すでに健康経営の企業銘柄があるそうです。例えば「なでしこ銘柄」、これは女性が働きやすい指標、株価とは関係なく良い人材が集まり、業績が上がっている企業も増えているということが会社の実名をもって紹介されました。ブラック企業では継続不可能な社会になってきているようです。「美男美女企業」という指標もあるようです。
さて、SAC東京参加企業の皆様はいかかでしょうか。まずは経営者が経営理念の中で健康の重要性を明記していること。そして社内に「健康経営室」の設置、そして「メンタル・ストレスチャック」や「カウンセリング」などを配置し、タバコ対策のための費用負担やインセンティブを駆使して働きやすい環境を整えていくなど企業が「健康経営」をめざしていく社会へと向かっているのです。ここに健康寿命延伸ビジネスの大きなヒントがあると思いました。
二回目の質問タイムです。
Q8.タバコ以外の改善例はあるか
Q9.健康組合へのアドバイスは
Q10.働く空間づくり 働きやすさのためのビジネスは有効か
参加企業の質疑は辻教授の次なる研究テーマへとつながるかもしれません。
辻教授もこれらの質疑にニンマリでした。
さて、次は交流会報告です。交流会も第三回目となりました。会場はセミナー会場と同じサピアタワー3階の「パパミラノ」で開催しました。
まずは乾杯のご発声はカルビー(株)の石原さんです。
乾杯後は歓談が始まりましたが、辻教授との名刺交換を優先させていただきました。教授の前には長い列ができてしまいましたが、名刺交換前の方々には適宜食事をとっていただき参加者同士の交流を同時進行させながら会を進行いたしました。
そして、参加者の方々から今日の講義の感想とともに会社・自己紹介タイムです。
まず、トップバッターは(株)カーブスジャパンの増本さん。
8月21日の仙台でのキャンパスツアーにはSAセンター内にあるカーブスが見学できるかもしれません。
続いて鹿児島県から参加の医療法人玉昌会の高田さん。
次は、サントリーグローバルイノベーション(株)の内田さん。
サントリー食品インターナショナル(株)の烏谷さん。
それには辻教授のコメントもいただくことができました。それはまさしくミニ・コンサルティングのようなものと感じました。次回以降も継続していきたいと思いました。
参加企業の皆さまの自己紹介や参加目的が分かり始めたためか、交流はさらに活発化してきたように感じます。きっと各社の情報交流とともに企業間のコラボレーションのきっかけとなると事務局としても期待が高まってきました。
交流会の結びのご挨拶は(株)ウチダシステムズの山本さんです。
住環境やオフィス環境を整える健康寿命延伸ビジネスを目指したいと力強いメッセージをいただいたところで会はお開きとさせていただきました。
第3回月例会、交流会にご参加を賜りありがとうございました。
SAC東京事務局長 小川利久
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